軽井沢アイスパークにおける課題と断熱効果の重要性

はじめに

ロックウール工業会は、2017年度、男子カーリングチーム・SC軽井沢クラブのチームスポンサーとなりました。
そこで、SC軽井沢クラブの拠点である「軽井沢アイスパーク」を通年運営していくための課題と断熱効果の重要性について、当時設計を担当されていた、株式会社山下設計 技術管理部 専任部長 真鍋喜嗣(まなべ よしつぐ)様にお話を伺いました。

軽井沢アイスパークの概要と特長について

軽井沢アイスパークは、長野県軽井沢町の総合スポーツ施設「軽井沢風越公園」内に位置します。
軽井沢風越公園での1998年長野冬季五輪のカーリング開催後、軽井沢町では通年使用できるカーリング場の設立を目指してきました。

アイスパークマップ

そこで2013年3月、軽井沢町が発注元となり、6シートの通年使用できる日本最大級のカーリングホールと400m屋外スケートリンクとの共用施設「軽井沢アイスパーク」として竣工しました。

現在ではカーリングの聖地として、国際大会も定期的に開催されているほか、カーリング体験教室を開催するなど、日本カーリングにとって重要な拠点となっています。

また2階の「ふれあいホール」では、カーリングとスケートの2つの競技を観戦できると共に、誰でも自由に利用できる多目的空間として開放しています。
スポーツ交流の場として。憩いの場として。更には国際大会後の懇親パーティー会場としても利用されています。

ふれあいホール01 ふれあいホール02

軽井沢アイスパーク建物外観について

軽井沢アイスパーク外観

軽井沢町は、自然保護対策要綱により 「2寸勾配以上の傾斜屋根」の義務など形態規制がとても厳しくなっています。
そこで軽井沢アイスパークの外観は、後背にそびえる風越山の美しいフォルムと軽井沢の自然に調和できるよう、なだらかな曲面を描いています。

またスケートリンク側一面のガラスには、屋外スケートリンクの氷がガラスの反射光で溶けてしまわぬよう傾斜したガラスを採用しています。
その傾斜により、ガラスには空一面が映し出され、周囲の自然とも調和していくよう工夫されています。

屋外スケートリンク

地場資源の活用について

軽井沢アイスパーク内には、多くの地場資源が使用されています。

【ふれあいホールの内装】

ふれあいホール内装
地元の信州カラマツを天井や壁面、カーテンウォールの化粧材として使用しています。

【エントランス】

エントランス
インパクトある、信州カラマツの緑甲板で仕上げた軒天が来館者を出迎えます。

通年カーリングホールにおける課題と施策①

カーリングシート(氷面)の氷上に、結露や氷の霜が発生すると「ストーン」が滑らなくなり、フェアな試合が行えなくなります。これら結露や霜の発生の原因には、観客や選手の体内から発する水蒸気や空調の風などが考えられます。

軽井沢アイスパークでは、ストーンが滑る際に摩擦抵抗が少ない安定したベストコンディションの氷を実現・維持することが重要課題となっていました。

軽井沢アイスパーク

施策プラン①-1 <高気密・高断熱の重要性>

その課題解決には、高気密そして高断熱の空間が求められます。
そこで外壁断熱と共に、内装側にも断熱・防湿層を設けた二重の防湿断熱で高気密・高断熱の空間を実現しました。
これらの最適な断熱・防湿工法の採用によって、国際基準を満たす競技環境を築き上げました。

高気密・高断熱の重要性

施策プラン①-2 <インナーシェルの導入>

インナーシェルと呼ばれる「内装側防湿断熱+空気層+外壁断熱」で段階的に外部との温度差が設定・調整できるようになり、結露防止が可能となりました。

インナーシェル

施策プラン①-3 <空気対流の影響軽減>

カーリングに必要な安定した氷を維持するために、天井面をアーチ形にして中央部を高くし、空調による空気対流の影響を最小限に抑え、空調の風による氷質の悪化を防ぎます。

軽井沢アイスパーク

施策プラン①-4 <観客席の工夫>

観客席の人体から発生した水蒸気によるカーリングシートの結露を防ぐため、観客席前方にガラスを配置。
発生した水蒸気は、観客席後方へ空調で上昇させ結露を防いでいます。

観客席前方にガラス

施策プラン①-5 <その他の工夫>

ふれあいホールとカーリングホールの間にある窓には、結露防止のためヒートガラス(発熱による結露防止)を採用。
またホール出入り口にはエアタイトの二重扉を採用し、隣接部屋・ホールからの結露を防止します。

結露防止のためヒートガラス

通年カーリングホールにおける課題と施策②

カーリングシート(氷面)の氷上に、結露や氷の霜が発生すると「ストーン」が滑らなくなり、フェアな試合が行えなくなります。これら結露や霜の発生の原因には、観客や選手の体内から発する水蒸気や空調の風などが考えられます。

施策プラン②-1 <省エネルギーシステム導入>

<調査・解決>
軽井沢町の豊富な地下水脈を活用できないか調査したところ、敷地内地中80mにおける平均温度が12.8度と外気温が比較的に一定であったため、地中熱利用熱源システムの導入により、省エネルギーによる環境負荷軽減が実現しました。

<導入プラン>
地中熱採熱杭100m×60本(25A×4本1組)を軽井沢アイスパーク屋外駐車場下に設置。
そこから冷暖房系統・暖房系統・給湯系統の3系統で省エネルギー効果の高いヒートポンプ熱源システムとして稼働しています。
例えば「ふれあいホール」では、寒冷期には床暖房・パネルヒーターとして、また通年では空調機として活用しています。

地中熱採熱杭

施策プラン②-2 <安定した製氷装置導入>

わが国初の液化CO₂の冷媒を使用した製氷装置を導入することで、従来よりも少ない冷媒の循環で均質な製氷面冷却が可能になり、ランニングコストも年間で30%低減が実現しました。

安定した製氷装置導入

わが国初の液化CO₂製氷機用冷蔵機の導入

これらの施策を実施することで、カーリングホールの温度を通年8度に設定可能とし、カーリングシートを常にベストコンディションに保てることができるようになりました。
またアイスメーカー(製氷作業員)による安定した世界水準のぺブルの維持が可能となり、国際試合にも通用するカーリングホールの運営が実現しました。

※カーリングホールの氷は平たんではなく、氷上に水の粒を作ることをぺブルと呼びます。ぺブルは、突起を形成し氷面の摩擦を軽減します。
これからのカーリングホールへの想い

最後に、真鍋様にこれからのカーリングホールへの想いを語っていただきました。

現在は寒冷地である軽井沢町や東北・北海道内でのカーリングホールがメインとなっているが、今後は都内の地下スペースを活用したカーリング場を造ってみたいです。

カーリングを知ってもらうには、もっと身近なものでなくてはなりません。
仕事帰りに、同僚と。夏の暑い日に、涼みながら1ゲーム。
ひと汗流した後は、ビールで乾杯。
そんな新たなカーリングスタイルが確立できれば、ボーリング場のように全国各地で楽しんでいただけるのではないでしょうか。

真鍋喜嗣様

<プロフィール>
真鍋喜嗣 (まなべ よしつぐ)

1957年 大阪府生まれ
1982年 東京理科大学工学部建築学科卒業
1984年 東京理科大学大学院工学研究科修了
同年、株式会社山下設計入社
現在、株式会社山下設計 監理技術部門 技術管理部 専任部長

カーリング男子日本代表 SC軽井沢クラブ応援スタジアム  カーリング男子日本代表 SC軽井沢クラブ

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